つい先日まで、「音楽」をも聴きたくない…とどこか耳が拒絶しておりました。けれどやっと少し何か聴いてみようかな…と思い始め、一体何の曲を聴きたいのだろう…と自問自答した日々も続きました。
うっかり「元気を出そう!」と思ってエルガーの「威風堂々」の元気ソングみたいな感じのものやベートーヴェンの「運命」なんて大きな曲を耳にすると逆に体力がもたなくて、しんどくなってしまいそうだと思ったし、かといって大好きなラフマニノフの「ヴォカリーズ」やカッチーニの「アヴェ・マリア」なんかを聴くと、あまりにも胸が締め付けられて号泣しそうな気がするし…。
さり気なく耳に優しく届いてくれるような…安心できるような曲、演奏、楽器…ってなんだろう…。と実は何日か考えてこんでいました。3.11以来、テレビの音と時々英語の音声だけの生活が続いていたので、「音楽」を聴くためのリハビリがもしかしたら必要なのでは…と思ったわけです。
ロックやジャズやポップス系、全て全く聞かないわけではありませんが、やっぱり最初に聴いてみようかと思ったのがクラシック音楽。そして手にしたのがこちらのCD。
チャイコフスキー/The Seasons: 内藤晃(P) +janacek 吉松隆決して勇気が漲るような力強い演奏ではありません。かといって、感傷的な演奏でもありません。けれど無機質とはほど遠いです…。刺激が強くなく、それでいて心に届く音楽。そんな音楽を求めていたと気付きました。内藤晃さんのピアノ演奏は、とにかく音の響きが1音ずつあたりに拡がり、その粒子たちが空気に透明感を運んでくれる…そんなイメージを持たせてくれる演奏なのです。
オーケストラの音ではなく、ピアノの音が私にはちょうどよい…そう思いました。そして…聴き進めていくうちに、今まさに日本が模索を続けている状況とこのCDの流れとが不思議とマッチしました。
最初は、
ヤナーチェクの「霧の中で」から
始まります。
小説の「1Q84」で、
ヤナーチェクという作曲家の名前を
聞かれた方も多いのではないかと
思いますが、
そのヤナーチェクが晩年に作った
ピアノ曲がこの「霧の中で」です。
倍音の心地よさもあったり、
自然に耳に音が入ってきてくれました。
もちろん、内藤晃さんが紡ぎ出す音楽があってのことです。透明感あふれる彼の音はまさにこの「霧の中で」にぴったりと寄り添っています。
続く曲はチャイコフスキーの「四季」。
優しく包み込んでくれるような
安心感でいっぱいの演奏。
なんてありがたいんだろう…と思いました。
チャイコフスキーはロシアの作曲家ですし、
しかもロシアの旧暦の「四季」に基づいて
作られている曲なので、
日本の四季とはちょっと
ズレもあるようですが、
それは充分に理解出来ることと思います。
本来なら…この3月に出てくる
「ひばりの歌」のように
春を待ち望んでいるはずだったはずが…。大変な月になってしまいました。
この「四季」のような平穏な日々を懇願したくなったのは、10月を聴いていた時。1音1音の意味合いが心の深くに沁みてきました。
そしてラストの吉松隆さん作曲「4つの小さな夢の歌」。
先日の記事にも書きましたが、私たちが求めているのはきっと「普通の生活」だと思うのです。1日も早く様々な問題が収束してくれることをじっと待ちながら「ささやかな夢」「小さな夢」である「普通の生活」に思いを馳せながら、静かにこの曲を聴きました。
…そして…すごく素敵な希望を夢見ることが出来たような気がしました。決して大きな勇気とかではないけれど…普通に近づけるための小さな一歩のような…そんな光を見せてくれるような曲と演奏なのだと…。
チャイコフスキー/The Seasons: 内藤晃(P) +janacek 吉松隆関連商品として、内藤晃さんが監修している楽譜
楽譜 ヤナーチェク ピアノ作品集 1楽譜 ヤナーチェク ピアノ作品集 2ヤナーチェクの特集が組まれている
音楽現代 2011年4月号では、内藤晃さんも執筆されていらっしゃいます。
レビューポータル「MONO-PORTAL」